M-SUZUKI_blog

GSJ主幹”M-鈴木”の、日常とかバトルテックの話とか。

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試しに書いてみよう!の話●第5回

 カチューシャTR型は元来が正面戦闘に投入されるべき性格を持った車種では無い。
 申し訳程度の装甲、その下にあるのは「赤熱した運動エネルギー」等と言う過剰に暴力的な仕打ちに直面する事を夢想だにしていなかってであろう、効率優先のコンポーネント。
 目的も定かでは無い自己欺瞞も自己陶酔も介在する余地無く、被弾すればひとたまりも無い。
 音の介在し得ない瞬間と言う時間の中で構造材が捻じ曲がり、燃料タンクは熱と内圧と応力に耐えかねて無秩序に内面を曝け出す。
 気化と混合と圧送と加熱が同時に進行し、車体の内部空間の殆どを有効利用した燃焼炉と化して爆発的に燃え上がらせる。
 一拍の間を置いて、弾薬庫のあった後部を上空に跳ね上げる様に本物の爆発が起きる。
 車体を覆う炎が拡大したと錯覚する間も無く、カチューシャはごく一部の部品=主に足回りだ=を残して消滅した。
 爆発の轟音はしかし、この鋼鉄の巨人が耳にするに相応しい、ささやかな音源として認識野に変換される。
 乗員が脱出した様子は無かった。彼らは固液混合燃料としてその炎の宴に参加した。
 敵性兵力が脆弱である事に対し、矛盾そのものである怒りを抱く。
 矛盾しているのは人間の不完全な精神であって、その産物である戦争と言うシステムは大前提である異常性を受け入れた瞬間からあらゆる疑問の存在しない手段であり、究極の目的となる。
 ましてやその行為の遂行を目的とした軍隊と言う存在は異常事態を遂行する為に存在し、だが、その遂行に不可欠である様々な付随事項は正常かつ健全な経済活動とそれ自体が産業足り得る膨大な事務処理に撚り合わされ、紡ぎ出される。
 (その過程を経る事無く巨額の軍事費用を捻出し続けたならば、滅び去った巨大連邦軍事国家と同じ道を歩む事になる)
 それ故にそれは巨大な官僚組織であり、その事実は「前線」と「後方」、更に「上層部」との隔たりが何者にも埋め難い、時として敵より猶遠くにある可能性を示唆している。

 意思決定機関に措いて、戦闘の趨勢は絵空事に過ぎず、現実から遊離する。
 前線では現状への対応が最優先事項となり、大局的見地など望むべくも無い。
 
 かくして軍事行動は同じ陣営にありながら作戦遂行のレベルを超えた部分での激しい意見の食い違いを見せる訳であるが、殊、遂行の側面に措いては政治的意図が介在しない限り効率的である事が求められる。
 それこそがかつて、戦争が経済活動の一翼を担い得た理由であり、勿論現在でも局地的な戦争=継続した2桁程度の戦闘=で勝利を得るには結局の所、経済活動と同等の理論が支配する事になる。
 
 いかに効率良く敵を排除するか?

 排除とは生命の剥奪ばかりを意味する言葉では無い。
 その対象となり得るものは、闘う手段であり、ハードであり、ソフトであり、闘う意志でもある。
 それを失ったものは「敵」では無い。
 しかし、その行為は結局の処、効率良く破壊し、生命を奪うと言う行為を避けて通る事は出来ない。
 何故なら、人間は大局的に言って、傷みを伴わない教訓からは何も学ばないからである。

 目の前に在る「モノ」が、危険な存在であると言う事実を、間抜け面の頬を引っ叩いて骨の髄にまで叩き込んでやる。

 原始的で有効な普遍的方法論。
 俺はその為にいる。

 中心から外へと吹き上がり、外から内へと己自身を巻き込む事で「天へ駆け上がるマッシュルーム」と化したカチューシャ。
 それを追うかのように、残骸から立ち上る煙の向こうから送り込まれてくる射撃の密度が再び右肩上がりとなった。

 国家の意思を代行する為に殉じた兵には敬意を表すれど、死者は戦力より除外された存在に過ぎず、死体は障害物にも遮蔽物にもならない=言うなれば丈の短い草や取るに足らない小石の様なものだ。
 『死者が負傷者よりもマシな点が一つだけある。それはそれ以上何も要求しない事だ。』とも語られる。
 平時は兎も角戦争とはその認識を求める環境条件であり、ましてや戦闘中ともなればその冷徹さは非人間的であり、しかも死体が既に非人間的存在=原型を留めている保証すら無い=とあれば最早その存在を意識に上らせる事自体が困難だろう。

 片時も止まる事無くランダムに、それでいて地形の照合を行いつつ移動を繰り返す。
 俺の足跡を追い=質の悪い調査官の様に=地面を掘り返し穴を穿つ着弾痕。50tを越える主戦闘車輌が接近して来る。
 何故先に貴様が出てこない?
 無論それは俺がそうなる様に接近したからであり、文句をつけるべき立場には無い。
 だが論理と感想は別に在り、その2つは共に俺の現実から遊離する運命にある。
 低く崩した姿勢で踏み出した足に重心を乗せて進行方向を変える。
 視界がぶれる横G。
 動きをトレスしようとしていた=恐らくは熟練兵の=射手からは俺の(正確には俺の乗るこのメックの)姿が消えた様に感じただろう。
 味方だった残骸を踏み砕いて突進するその戦車に、横合いから爪先を叩き込む。
 55tの鋼鉄の巨人が体重を乗せた蹴りは、車体の側面に施された整列結晶装甲を紙ででもあるかの様に易々と変形させ、構造材をごっそりと引き剥がす。
 キャタピラと転輪がサイドスカートと共に大気圏内における投射放物線のレパートリーの多さを披露する。
 機動性を失った鉄の棺桶から亡者達が転がり出る。
 命令には「状況が許す限り乗員を余さず殺傷せよ」なる一項が加えられていた。
 必死に「死骸」から離れようとするその動きを、両肩の中口径レーザーの自動機構がトレスさせる前に、次の目標とその射撃が俺の動きを支配する。
 正面から接近して来たのはIFV(歩兵戦闘車)だった。
 戦闘用メックが備えた武装には殆ど意味を為さない様な装甲しか施してはいないであろうが、「派手な射撃はその事実を隠す」と信ずるところの狂信者が指揮しているかの様に、搭載火器の全てを稼働させながら前進してくる。
 よどみなく前進を後退に切り替え、疎林を回りこむ。
 言うまでも無く、あれは囮だ。
 ジャンプジェットを吹かし、背後の丘陵を後ろ向きに飛び越える。連続性の無い動きにも機体は抗議の声を上げる事は無い。忠実な黒い猟犬。
 丘陵の陰には=雨季には川になるのであろう=狭いとは言え充分な深さを持った窪地があった。
 そこでは、先ほどまで俺が進もうとしていたルートに長大な砲身を指向したメタルモーラーが蹲っている。
 近距離用兵装であるSRMの発射筒にZ軸方向の旋回能力を与えられていないメタルモーラーには、反撃の手段が無い。
 軽く身体を捻って右脚から着地する。
 その瞬間、55tx30mの位置エネルギーから転じた運動エネルギーが砲塔を踏み抜く衝撃と熱と音とに変換され、その殆どは再利用不可能な形態で世界に拡散する。
 小規模ながら「最も絶望的事実として万人の受け入れに拒否される傾向にある熱力学の法則」を体現する瞬間。
 奇跡的に爆発こそしなかったものの、完全に兵器としての機能を失った残骸から砲身を引き抜くと、遠く疎林に向かって放り投げる。

 「今お前達が愚かにも楯突かんとするその敵を知るが良い」

 投げ捨てた砲身はその示威行為にして意志表示。
 無意識の差別的行動を内包していると言う事実を・・・少なくともこの時点では(俺は)認識していない。
 していたとしても目撃者の保存と言うお題目で己自身を欺く事になるに過ぎないのではあるが。

 IFVが後退するのを認識しつつ、磁気反応に惹かれる様に前進を再開する。

 現在の上官であるアーライカ中尉は・・・言うなれば戦争そのものだ。
 彼の信ずる所に依るならばその理想は俺の持つ認識とそうかけ離れてはいないのかも知れない。
 だが偏執狂的にも一つの形態を通じてしかその実現に至ることが出来ないとするその方法論は、議論以前の問題である。
 戦闘に参加する気があっても、積極的に「戦争」に従事する気が無い小市民に取って、「信用しないが故に俺達を遠ざける」と言う、中尉の現時点での行動方針はむしろ有り難いと言っても良い。
 第一優先事項を遵守し、実質を伴った戦果を提示すれば良い。
 血に飢えた狂犬?
 結構だ。
 その血がオイルと冷却剤で贖われるものならばそれに越した事は無い。
 何よりその方が金になる。

 通信機が声を拾う。
 「ブロウ3より2、3番から、距離3・・・」

 来た、金になる相手だ。
 側方に待機させていた部下がお客さんを見つけた。
 今日の戦争へのお付き合いは、こいつらを追い払った時点でお役御免となる。
 「ブロウ3、マニュA」
 「ROG」
 観測を任せて地形の陰から接近を開始する。
 「チャンプ、クロス、トリック、トリック」
 機種はチャンピオンとクルセイダーが各1機にセンチュリオンが2機。
 センチュリオンの武装は先入観の存在を許容しない。
 それ故、選択し得る予備的手法は汎用的でインパクトに欠けるものになる。
 「1.5にてエスコートB」
 「ROG」
 進む。
 それは自己矛盾を内包した行動選択へと踏み込む準備段階。
 起伏を抜けて、視認距離へと到達する。視線が通る。見えた。
 だが視界は即座に膨張する白煙に塞がれる。
 煙幕の射撃展張。
 その着弾点は俺の右斜め前から唐突に始まり、マシンガンの弾着の様に連続して敵へと至る道を形成する。
 4基の発射筒を擁するとは言え、400mの距離からタイミングまで合わせた完璧な射撃。
 部下の仕事に及第点を与えつつ、突進する。

 無論、唯追い返すつもりは微塵も無い.

 自己矛盾万歳。

 ★さて、ようやく本人が登場です。
  本人って?
  わかんない人にはわかんないのですが、解ったからどうって話でも無いですな。
  名前位だしゃ良いんだ、うん。
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