M-SUZUKI_blog

GSJ主幹”M-鈴木”の、日常とかバトルテックの話とか。

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トレル1に措ける(マローダーを空輸して退けた)輸送ヘリの検証

 はい、毎度寓にもつかない検証を行っておりますが、今回はグレイデス軍団に登場いたします。
 知る人ぞ知る「75tを搬送したVTOL」のお話でございまする。
 勿論、機器設計ルール上では、最大重量は貨物込みで計算される事になっています。
 しかし、メックに措いては自重の10%までの懸架搬送を可能としており、自重同重量までの牽引が可能としています。
 振り返り、現実の車輌を見た場合、設計上の最大積載重量を大幅に越えた貨物搬送は決して珍しいものではありません。
 移動力の算出等に難しい部分があるかも知れませんが、計算上の最大重量までの貨物積載は「戦闘機動限界重量」と考え、移動可能重量は更に高いところに有ると考えることが可能です。
 考えてみれば当然の話で、(根の暗い)陸戦兵器であるメックや車輌は言うに及ばず、(華麗な)VTOLや固定翼機も含めた機器と言うものは、戦闘に際しては通常の運用では考えられない激しい機動を行う前提で作られています。
 航空機は全体に10G以上の負荷がかかる状況下での機動を前提(それも翼廻りに集中的に!!)とした設計が為されており、民間の一般車輌ですら部分的には90Gの荷重がかかる事を前提に設計されています。(飽く迄も部分的に・・・ですが)
 実際地面の凹凸を迂回する事なくサスペンションストロ−クと構造強度に運命を委ねて疾走する戦闘用高機動車の足回りの最大Gは200Gを越える場合もあるのです。

 その一方で、単に「移動するだけ」の行為を前提とした場合、そう言った構造強度は持て余すが如き過剰品質と言える物です。
 長距離輸送用トレーラーに求められるのは加速よりもトップスピードであり、小回りよりも安定した走行であります。
 そうした機器は設計上の自重を越える積載に措いて支障を来す事は・・・それほど・・・ありません。
 せいぜいが「ブレーキの効きが悪い」とか「ハンドルを慎重に操作しないと横転する」とか「加速が悪い上に不完全燃焼を起こしやすい」と言った程度です。(駄目だってば!)
 瞬間G(一発強度とも言う)で10Gに耐えられる構造ならば、継続的3G程度には耐えられるのです。それは構造的に本来の総重量の3倍程度まで何とか崩壊することなくいられる(勿論ベアリングやエンジンに対する負荷を無視しての計算である)と言う事です。
 (まさか自重の3倍まで積載可能だとここで言うつもりは無いですよ?為念)

 こうした考えに立つならば、輸送用車輌に限らず「自重の50%+積載スペースの2倍」程度の「重量」の積載は不可能では無いと(取り敢えず根拠も無しに設定した数字である)結論する事も出来ます。
 ・例)10tトラック 中枢1.0 管制装置0.5 動力ICE60p3.0 積載補助装置0.5(クレーン等) 装甲1.0 ペイロード4.0
  の場合、日本語版での最大積載可能重量は当然4tです。
  過積載のルールを上記の形式とするならば5+4+4=13tとなります。
  この計算方法を適用すると過積載時の総重量は19tになる訳です。(そりゃブレーキも効かなくて踏み切りに突っ込みもするわな)

 さて、陸上輸送はこれで良いとして、問題は空中機動機器の場合です。

 何が問題かって言うと・・・・

 空中では推力(揚力)そのものが不足するならば、構造が持とうがどうだろうが「お話にならない」からです。

 固定翼航空機の場合は速力そのものが揚力に密接に関係しており、十分な速度を得るに必要な滑走路長があれば、か細い推力で以っても飛び上がることが可能です。(理論上は。必要な速度での空気抵抗を越える推力と推進剤噴出速度無いし流速の推進ベクトル分が確保できるなら)

 しか〜し
 VTOLの場合、そうは烏賊の男性生殖細胞生産ユニットでありんす。
 話を単純化する為に回転翼の翼端速度の問題には目を背けておきますが・・・・
 回転翼の場合、推力とは即ち「単位時間あたりに自機から推進方向と反対方向へ押しのける大気質量」であると言っても過言ではありません。(高速に至った場合の形成揚力を無視するならば)
 あまり関係ない話ですが、流体力学に措いて、ある一定以上の速度で流体中を移動する物体に対する抵抗の算出では、粘度の要素を除外して密度のみが抵抗算出上の要素となります。(これは概算であり、翼の末端等で発生する渦等による抵抗は考えられていません、ちなみに形状でこの翼端抵抗を減らしているのがスーパージャンボの跳ね上がった翼端形状です)
 積載自重が1.5倍になったなら、この値を1.5倍にしなくてはいけないのですから、即ち回転翼の回転速度が1.5倍に(ピッチ角の話は無視じゃ〜)なる訳です。
 テイルローターがあるタイプならその偏向力も1.5倍必要になります。
 当然必要とされる動力も1.5倍になる訳です。(詳しい方へ、大変大雑把で観念的計算なので厳しいツッコミはご勘弁下さい、けどフォロー出来る方は宜しく)

 但し、通常なら高速で移動する為に水平方向に振り分けている推力を鉛直方向分のみに割り振ることで若干の改善が見られますが、それにも限界があり、懸架重量の増大は思いのほか小さい数字に留まります。(ベクトルで考えて下さい)

 すると、VTOLの追加積載可能重量はどのくらいを考えれば適当でしょうか?
 (って殊勝な事を言ってるふりして自分勝手な計算を正当化する為のステップであるんですがぁ) 
 最大出力を継続使用する事で「基本最大自重の5%×(2+(巡航速度の半分))」+「ペイロードの2倍」を積載可能と考えます。
 或る架空の30t(ルール上の最大級)輸送用VTOL(※1)が19tのペイロードを有し、移動力が巡航6最大9ならば、上記計算方法に従った最大貨物積載重量は45.5t(その際の総重量は60.5t)になります。
 マローダーを運ぶには全然っ足りませんねぇ(笑)
 しかしこれは対地効果(以降GEと表記します)を無視した場合の数字です。
 GE(グランドエフェクトの略)は皆様ご存知の通り、何も無い空中で空気の流れを作る事で得られる反作用のみの推力よりも、その空気が至近に存在する固定物との間で圧力(密度)が高まる事で反発力を生じ見かけ上の推力が増した状態を指します。
 (ホバーなんてその良い例ですね。)
 VTOLに於いて、このGEは非常に重要な意味を持っており、山を斜面に沿って上昇して到達できる高度と、完全な自力上昇限度は明確に区別されてスペックデータ化されているのが普通です。
 先に述べた内容で容易に推測可能な通り、回転翼での推力は大気密度に大きく依存します。
 その一方で地表から10kmやそこら離れたところで重力の低下は微々たる物で、影響しません。
 つまり到達高度(大気密度の低下率)の差は推力に対するGEの効果と同義なのです。
 この効果が25%の推力上昇を齎すとします。(適当)
 それを論拠に先の大型輸送VTOLがGEを活用した場合を想定すると、60.5×0.25=15.125t≒15tの推力上昇にあたります。
 その際の総重量は75.5t、積載物重量は64.5tです。
 まだまだ「お話になりませんな」ってな数字です。
 ではトレル1ではどうやってVTOLが飛行したのか?
 残された物理的詭弁上の隠し弾はあと僅かに1つです。

 残る1つ
 それは重力です。
 トレル1の表面重力が低ければ即ち積載重量が増える訳です。
 ではトレル1の表面重力は一体幾つなのか?
 それは0.86Gです。つまり見かけ上の重量も86%になります。
 86%で75.5tとは?
 75.5÷0.86=87.79・・・・87.5tです。
 ここから非積載自重11tを差し引くと、残る重量は76.5t

 つまり、トレル1が地球に較べて86%の表面重力しか持たない環境である前提で、GEを生かせる様にNOEバリの低空飛行を以って、しかも最大出力を継続することでこのVTOLはマローダーを移送可能になるのです。

 ※1 30tVTOL移動力6/9
 中枢3t 管制装置1.5t 浮揚装置3t 内燃機関動力(40p)2t 装甲1.5t サスペンション点140p
 合計11t ペイロード19t
 さて、どないだ?
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