試しに書いてみよう!の話
又閃光が上がった。
恐らく今のはLRMが装甲表面に着弾したものだろう。
長年、夜間観測を行っているとそう言った区別も付く様になる。
月が出ている。
今はまだ厚い雲に阻まれて大地にその光を撒き散らしてはいないが、あと10分もすれば周囲の闇は駆逐され、真昼の様に秘匿されていた存在を曝け出す。
だが、その前に我が偵察小隊は観測を切り上げる。
都合130tにしかならない我が小隊が、まともな敵戦力を相手に戦場に留まっていられる時間はそれ以上に短いからだ。
恐らく今のはLRMが装甲表面に着弾したものだろう。
長年、夜間観測を行っているとそう言った区別も付く様になる。
月が出ている。
今はまだ厚い雲に阻まれて大地にその光を撒き散らしてはいないが、あと10分もすれば周囲の闇は駆逐され、真昼の様に秘匿されていた存在を曝け出す。
だが、その前に我が偵察小隊は観測を切り上げる。
都合130tにしかならない我が小隊が、まともな敵戦力を相手に戦場に留まっていられる時間はそれ以上に短いからだ。
私はライラ共和国装甲軍の一翼を担う傭兵部隊、ロッペンムダー中隊の偵察小隊に所属するMW、アーライカ・レイノルズ。
華やかならざる経歴ではあるが、戦場で過ごした時間は私を中尉と言う階級と小隊長と言う職責に落着させた。
現在の任務は進出して来た敵部隊の規模と即応能力を計る為の偵察行動であり、その目的遂行の為不本意ながらこちらから攻撃を仕掛けている。
勿論戦術的勝利を求めての攻撃では無い。
もし敵が情報を金で売ってくれるなら私は喜んで私財を投げ出すのだが−
闇をミシン目で切った様な飛跡。
目の前で聞けばそれなりの迫力を持っている筈の37mm対装甲機関砲の発射音だが、この距離では貧弱な印象しか与えない。
しかし、その着弾を受けたのは多分ジャンのジャベリンだろう、あれの装甲は重量なりの装甲と言うには多少貧弱だ。
そろそろ耐弾性も心許なくなっている筈
完全とは言いかねるが、必要な情報の大部分は手に入った、司令部は何か文句を言ってくるだろうが・・・なに、構うものか、それにもし損害を出せば声のトーンは2つ上がるのだ。それに100%の情報で戦争をしようと言うのは虫が良すぎる。
イーブン=イーブン
リスクは均等に だ
「よし、充分だ、ピギーランプ2から順次後退せよ」
部下に相互支援を維持しながらの後退を指示する。濃密とは言えないまでも効果的な弾幕が敵の接近を阻み、数少ない接近ルートは限定的なものになる。
そして最終的に、接近中の敵の1機は私の乗機「フェニックスホーク」の近くを通る事になる。
極低出力運転で維持していた核融合炉を一気に戦闘出力に叩き込む
並みの重量級メックと同等か、それ以上の出力を誇るGM270モデルが最早隠す意味も、隠すことも出来なくなった高レベルの電磁パルスを周囲に撒き散らす。
この瞬間、センサーの警告に意識を振り向ける余裕のあったすべてのMWに私の存在は感知された筈だ。
だが戦場に措いて、人は万能では無い、兵士はむしろ不器用かつ愚鈍ですらある。
そうでなければ別の職にありつくだろう。
コクピットの収納された頭部のすぐ脇をクエンドラのスティンガーが緩いカーブを描きつつ、軽快に駆け抜けて行く。
鋼鉄の四肢に力が漲り、45tの巨体を持ち上げると右腕の指向するその延長上に哀れな獲物が飛び込んでくる。
「ありつけなかった口か・・・」
他人が聞けば意味不明の、鎮魂歌にもならない独り言を漏らしつつ、絞る様にトリガーを引く。
コヒーレントな光が、驚愕と言うよりは非難の色に満ちた罵声を発しながら私に向き直ろうとしている敵 − ウィットワースだ − の右脇腹を貫いた。
フェニックスホークの右腕に装備された火器の一斉射撃は思いのほか強力だ、およそ1t分の整列結晶装甲を再利用不能な鉄屑に変える能力を持っている。
射撃と同時にジャンプジェットにパワーを送り込む。
大地を蹴る私に向けて、中枢に届くダメージを受けて部品を撒き散らしながらも辛うじて転倒を免れたウィットワースが、驚くべき事にLRMを発射した。
その瞬間ウィットワースの右半身が再び閃光につつまれる。
発射装置にダメージが届いていたのか?運が無いときはとことん無いものだ。
自らが招いた横殴りの衝撃に横転する敵を尻目に最大速度で離脱を行う。
戦果の拡大など無意味だ。
全体で見た損失比による損得勘定などは統計学上のまやかしに過ぎない。実際に「死」に、そして「己の愛機の喪失」に直面する者にとって所属する軍の決定的勝利でさえも大した安心感には繋がらない。
勿論私もMWとしての誇りは持っている。だが、一体何機の撃墜がたった1回の被撃墜と折り合うか、私は知らない。
歯の浮く様な落下感を堪えつつ、未だ闇に沈む大地へと着地する、脚部全体がサスペンションとして機能し、一旦フルボトム、次いで伸び上がる。その動きを機体の前傾に合わせる事で淀みなく再び走り始める。
全力で離脱する我が小隊を補足するのは極めて困難だ。
いずれも180m級のジャンプ能力を備え、しかも全員が己の機体の特性を充分把握している。
機動性に劣る敵との距離は急速に隔たり、程なく有効交戦距離を抜け出した。
雲が切れ、月が姿を見せる。
この惑星の月は大きい
無論視直径の話に過ぎないが、空間戦闘を行う者と資源開発を考える者以外にそれ以外の大きさを問題にする者はいるまい。
表面を覆う細かいクレーターは生命を許さぬ環境の証左であるが、細かい砂塵と化した表層がもたらす幻影的な美しさはかの地球の月にも劣るまい。
あれを作ったのが自然だと言うならば、人間の営み等余りにも矮小なのでは無いか?
そう考えるのは余裕が出来たと錯覚しているからだ。
生き延びたのだ・・・と
だがその時、前方を疾るスティンガーの頭部が − 文字通り − 四散した。
体は無意識に脱出装置が作動した痕跡が無いか?とディスプレイの表示に目を走らせるが、理性は既にその行為が無駄であると認識していた。
余りに窮屈な環境を改善しようと、クエンドラが脱出装置を外していた事を思い出したからだ。
今の着弾 − 恐らくコクピットに直撃だ − ではどちらにせよ脱出は不可能だったであろう事を考えれば彼の人生の最後の数日が多少とも改善された環境で過ごされた事を祝福するべきだろうか?実際にはそんな事を考える暇などなかった。それを想ったのは後の事だ。
音は後からやって来た。大口径のACだ。狙い済ました1連射。
こんな所で待ち伏せを掛ける事が出来るのは高機動に分類される機体のみの筈だ。
導き出される答えは数少ない選択肢で記述される。
HUDに脅威評価を伴わない=撤退中の我々にとってそれは最大級の脅威と同義だ=索敵情報が表示される、遅い、あと3秒早ければ。
しかし敵の正体は私の想像とは違っていた。在来型の車輌1個小隊。完全にエンジンを停止し、手動で砲塔を指向し、装弾されていた1連射にかけたのだ。
驚くべき離れ業
彼らの所業が偶然に味方された努力の産物である事に − 忸怩たる思いはあるものの − 認めるは吝かでは無いとして、だがこの会敵は偶然ではありえない。完全に待ち伏せされていたと言う事実は−
思考が途切れる、戦術表示画面は更に遠距離からLRMの一斉発射があった事を伝えて来た。
100発以上のミサイルが弓なりに上空に飛来する。接近しているにも関わらず急激に見た目の運動量が減少して行く・・・即ち
目標は私だ
使い慣れたフェニックスホークは意のままに動いた、但し私の意思が相対的に遅くなって行くのを自覚している事を問題にしなかればの話だが。
どこか冷めた自分が直撃を告げる
激しい衝撃に45tの身体が地面に叩きつけられ、四肢が千切れ飛ぶ、脱出装置は故障したのか?
機体は何度も横転を繰り返す。以前転倒した時 − 随分と昔の事だ − に較べて随分と「軽い」。自重が減少した事を自覚する程の損傷
奇跡的に頭部には1発の着弾も無かった。
精神を痛めつける静寂の中、何故か聞こえなかった筈のクエンドラの絶叫が耳に残っている。
それは私の上げた悲鳴だったのだろうか?
私は救援が到着するまで、歪んだハッチを見下ろしながら狭いコクピットの中で待ちつづけた。
クエンドラは2階級特進し、少尉となった。
華やかならざる経歴ではあるが、戦場で過ごした時間は私を中尉と言う階級と小隊長と言う職責に落着させた。
現在の任務は進出して来た敵部隊の規模と即応能力を計る為の偵察行動であり、その目的遂行の為不本意ながらこちらから攻撃を仕掛けている。
勿論戦術的勝利を求めての攻撃では無い。
もし敵が情報を金で売ってくれるなら私は喜んで私財を投げ出すのだが−
闇をミシン目で切った様な飛跡。
目の前で聞けばそれなりの迫力を持っている筈の37mm対装甲機関砲の発射音だが、この距離では貧弱な印象しか与えない。
しかし、その着弾を受けたのは多分ジャンのジャベリンだろう、あれの装甲は重量なりの装甲と言うには多少貧弱だ。
そろそろ耐弾性も心許なくなっている筈
完全とは言いかねるが、必要な情報の大部分は手に入った、司令部は何か文句を言ってくるだろうが・・・なに、構うものか、それにもし損害を出せば声のトーンは2つ上がるのだ。それに100%の情報で戦争をしようと言うのは虫が良すぎる。
イーブン=イーブン
リスクは均等に だ
「よし、充分だ、ピギーランプ2から順次後退せよ」
部下に相互支援を維持しながらの後退を指示する。濃密とは言えないまでも効果的な弾幕が敵の接近を阻み、数少ない接近ルートは限定的なものになる。
そして最終的に、接近中の敵の1機は私の乗機「フェニックスホーク」の近くを通る事になる。
極低出力運転で維持していた核融合炉を一気に戦闘出力に叩き込む
並みの重量級メックと同等か、それ以上の出力を誇るGM270モデルが最早隠す意味も、隠すことも出来なくなった高レベルの電磁パルスを周囲に撒き散らす。
この瞬間、センサーの警告に意識を振り向ける余裕のあったすべてのMWに私の存在は感知された筈だ。
だが戦場に措いて、人は万能では無い、兵士はむしろ不器用かつ愚鈍ですらある。
そうでなければ別の職にありつくだろう。
コクピットの収納された頭部のすぐ脇をクエンドラのスティンガーが緩いカーブを描きつつ、軽快に駆け抜けて行く。
鋼鉄の四肢に力が漲り、45tの巨体を持ち上げると右腕の指向するその延長上に哀れな獲物が飛び込んでくる。
「ありつけなかった口か・・・」
他人が聞けば意味不明の、鎮魂歌にもならない独り言を漏らしつつ、絞る様にトリガーを引く。
コヒーレントな光が、驚愕と言うよりは非難の色に満ちた罵声を発しながら私に向き直ろうとしている敵 − ウィットワースだ − の右脇腹を貫いた。
フェニックスホークの右腕に装備された火器の一斉射撃は思いのほか強力だ、およそ1t分の整列結晶装甲を再利用不能な鉄屑に変える能力を持っている。
射撃と同時にジャンプジェットにパワーを送り込む。
大地を蹴る私に向けて、中枢に届くダメージを受けて部品を撒き散らしながらも辛うじて転倒を免れたウィットワースが、驚くべき事にLRMを発射した。
その瞬間ウィットワースの右半身が再び閃光につつまれる。
発射装置にダメージが届いていたのか?運が無いときはとことん無いものだ。
自らが招いた横殴りの衝撃に横転する敵を尻目に最大速度で離脱を行う。
戦果の拡大など無意味だ。
全体で見た損失比による損得勘定などは統計学上のまやかしに過ぎない。実際に「死」に、そして「己の愛機の喪失」に直面する者にとって所属する軍の決定的勝利でさえも大した安心感には繋がらない。
勿論私もMWとしての誇りは持っている。だが、一体何機の撃墜がたった1回の被撃墜と折り合うか、私は知らない。
歯の浮く様な落下感を堪えつつ、未だ闇に沈む大地へと着地する、脚部全体がサスペンションとして機能し、一旦フルボトム、次いで伸び上がる。その動きを機体の前傾に合わせる事で淀みなく再び走り始める。
全力で離脱する我が小隊を補足するのは極めて困難だ。
いずれも180m級のジャンプ能力を備え、しかも全員が己の機体の特性を充分把握している。
機動性に劣る敵との距離は急速に隔たり、程なく有効交戦距離を抜け出した。
雲が切れ、月が姿を見せる。
この惑星の月は大きい
無論視直径の話に過ぎないが、空間戦闘を行う者と資源開発を考える者以外にそれ以外の大きさを問題にする者はいるまい。
表面を覆う細かいクレーターは生命を許さぬ環境の証左であるが、細かい砂塵と化した表層がもたらす幻影的な美しさはかの地球の月にも劣るまい。
あれを作ったのが自然だと言うならば、人間の営み等余りにも矮小なのでは無いか?
そう考えるのは余裕が出来たと錯覚しているからだ。
生き延びたのだ・・・と
だがその時、前方を疾るスティンガーの頭部が − 文字通り − 四散した。
体は無意識に脱出装置が作動した痕跡が無いか?とディスプレイの表示に目を走らせるが、理性は既にその行為が無駄であると認識していた。
余りに窮屈な環境を改善しようと、クエンドラが脱出装置を外していた事を思い出したからだ。
今の着弾 − 恐らくコクピットに直撃だ − ではどちらにせよ脱出は不可能だったであろう事を考えれば彼の人生の最後の数日が多少とも改善された環境で過ごされた事を祝福するべきだろうか?実際にはそんな事を考える暇などなかった。それを想ったのは後の事だ。
音は後からやって来た。大口径のACだ。狙い済ました1連射。
こんな所で待ち伏せを掛ける事が出来るのは高機動に分類される機体のみの筈だ。
導き出される答えは数少ない選択肢で記述される。
HUDに脅威評価を伴わない=撤退中の我々にとってそれは最大級の脅威と同義だ=索敵情報が表示される、遅い、あと3秒早ければ。
しかし敵の正体は私の想像とは違っていた。在来型の車輌1個小隊。完全にエンジンを停止し、手動で砲塔を指向し、装弾されていた1連射にかけたのだ。
驚くべき離れ業
彼らの所業が偶然に味方された努力の産物である事に − 忸怩たる思いはあるものの − 認めるは吝かでは無いとして、だがこの会敵は偶然ではありえない。完全に待ち伏せされていたと言う事実は−
思考が途切れる、戦術表示画面は更に遠距離からLRMの一斉発射があった事を伝えて来た。
100発以上のミサイルが弓なりに上空に飛来する。接近しているにも関わらず急激に見た目の運動量が減少して行く・・・即ち
目標は私だ
使い慣れたフェニックスホークは意のままに動いた、但し私の意思が相対的に遅くなって行くのを自覚している事を問題にしなかればの話だが。
どこか冷めた自分が直撃を告げる
激しい衝撃に45tの身体が地面に叩きつけられ、四肢が千切れ飛ぶ、脱出装置は故障したのか?
機体は何度も横転を繰り返す。以前転倒した時 − 随分と昔の事だ − に較べて随分と「軽い」。自重が減少した事を自覚する程の損傷
奇跡的に頭部には1発の着弾も無かった。
精神を痛めつける静寂の中、何故か聞こえなかった筈のクエンドラの絶叫が耳に残っている。
それは私の上げた悲鳴だったのだろうか?
私は救援が到着するまで、歪んだハッチを見下ろしながら狭いコクピットの中で待ちつづけた。
クエンドラは2階級特進し、少尉となった。
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