M-SUZUKI_blog

GSJ主幹”M-鈴木”の、日常とかバトルテックの話とか。

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試しに書いてみよう!の話・・・・・3

●第3回
 黒い、フラクタルな尖塔と化して屹立していた木々が次第に背景に溶け込み始める。
 唯一の光源は遥か上空の高層雲、母恒星の残照が赤く映えている。
 西の空は越地平線まで晴れ渡っているのだろう。
 低い雲は既に背景の濃淡として溶け込みつつあり、高層雲を背景にしたシルエットとしてしか判別がつかなくなりつつある。
  >外気温6℃
  >風速3m南南西
  >相対湿度47%
  >気圧1002hp
  >地形傾斜8°
  >地盤強度D+
  >コリオリ力検出限度未満
 最近になって仕様強化された環境指標センサーは、そんな俺の態度にお構いなく無機質なデータを羅列していた。
 本当に必要な情報精度はこの数十倍に及び、事実その情報は数分の1秒毎に再検出され、この車体のFCSに流れ込んでいる筈だ。
 つまりここに表示されているデータは人間様が理解出来る程度に丸めた「参考データ」に過ぎず、余程の事が無い限りその表示画面意義は降下ポッドの貨物室に設けられた窓と同じく「人間様=お荷物」の気休めの為にあると言う事だ。
 そんなデータを表示させる位なら外部映像表示面積を増やせと言いたいところだが、それが実現していたとしても今この瞬間何の役にも立たない点では同じ事だ。
 あの時と同じ、闇に沈んだ戦闘になりそうだ。
 だが、あの時の戦闘は前方哨戒を怠った(と言うよりは困難だった)敵が砲身の直線上に飛び込んできたからこそ勝利をもぎ取る事に成功したと言うに過ぎない。
 砲手のカマリヤ曹長は未だ誇らしげにその時の事を語るが、俺はそんな気分にはなれない。
 その時の戦果=幸運だと判断されたのだろう=故にこの任務に駆り出されたのでは無いか?との思いが払拭できないからだ。
 「どうしたんですか?少尉殿。いくらセンサーを睨んだってそこから敵は出て来ませんよ」
 砲塔に一体化する様に並んだ我々の下後方(エンジンブロック側だ)に窮屈そうに座っている通信担当の少年兵(俺はこの15歳の少年を兵士だと言う気は断じて無い)が話し掛けてきた。
 本来定数が4人となっているメタルモーラーだが、A3型以降火器管制システムの自動化が進み3人が定数化しつつあった。
 当然そのスペースは瞬く間に必要不可欠な装備類の占有する所となり新参者の侵入を拒む。
 そこにわざわざ人員を配置する為に小柄な少年兵が歩兵部隊から選抜されたとの話だが・・・と言うのも機甲戦力についても「小隊長車だけは専任の通信士を置く」事が決まったからだ。
 俺の小隊はメタルモーラー1A5bisタイプMBT 4輌を擁し、機械化歩兵大隊に所属する機甲戦力だ。
 つまり、この部隊編成に於いては飽く迄も主役は歩兵であり、この場合歩兵戦闘車と言う事になる。
 そして我が戦車小隊は周囲に展開している歩兵共と連携してこのエリアの警戒にあたっていると言う訳だ。
 既に殆どの歩兵は降車警戒体制にシフトしているらしく、機動音は聞こえない。
 少年にとって、歩兵戦闘車に比してさえ遥かに重装甲のこいつに乗っている事実は安心感を得られる物らしい。周囲の緊張感を他所にリラックスしている様に見える。
 そんな声を聞いて曹長の肩から力が抜けた。
 俺には苛立たしいだけの少年の態度だが、少なくとも悪くばかりは働かなかった様だ。口から出掛かった叱責を飲み込む。
 視線を巡らし、右手の表示を確認する。
 緑のバーで表示されている数値を信用する限りバッテリーは未だ殆ど消耗していない、これなら明日の昼まででも持ちそうだ。
 こう言った時は正規の交換部品が回ってくる現状を素直に喜べる。
 そう考える事で多少は精神に余裕が出来た。
 今回の任務は敵の強行偵察の捕捉。
 飽く迄も捕捉までだ。
 後始末は遊弋するメック部隊が着ける事になっている。

 馬鹿言っちゃいけない。

 本当にそうなら俺の小隊が出張る必要なんて無いんだ。
 編成上の都合なんて事にはなっているが、要は砲火を交える事を期待されている訳だ。
 厄介な立場だ、何故かって?この小隊は歩兵と直協を期待されており、その運用は本来歩兵大隊長であるギヌンズ少佐の裁量に任されている。
 通常の場合、対装甲兵器戦闘を主眼とした行動とそれは相反するものだ。
 俺も戦車兵だ、もう一度あのロングショットを決めてみたいと思わないでも無い。
 事実歩兵連中の中には俺達にそれを期待する向きもあるのだろう。
 しかし、正直ギヌンズ少佐は俺と俺の部下を「逃げ切る迄の足止め」程度に考えている筈だ。
 撃ちたい時に撃てない、退きたい時に退けない。
 それはこいつが鋼鉄製の棺桶だって事を自覚させてくれる。
 だが、今回に限り小隊の運用はこのエリア(カペニテ集落西盆地)を統括するメリンズ大尉に任されており・・・大尉は俺に一任して来た。
 つまり「メックを喰う」事を期待されている訳だ。
 厄介だと思わないか?全く、戦車兵冥利に尽きるとでも言えば良いのかね?

 待機開始から68分
 突如凄まじい空電が通信機を酔っ払わせる。
 妨害電波では無い、荷電粒子砲が比較的近くで使われたのだ。
 始まった
 敵は隠密行動等と言った小細工を採らず、正面から殴り掛かって来たのだ。
 こうなると歩兵の出番は殆ど無くなってしまう。
 つまり俺達の出番と言う訳だ。
 味方のメックはこの時間だと…うまい、どんなに遠くても10km以内に居る筈だ。
 ここまでの地形も峻厳と言う程では無い、10分もかからずに支援が期待出来ると言う事だ。
 敵の位置は?
 メックが湿った地面を掘り返し乍ら走る時、その走行音は思ったほど大きくは無い。
 しかも周囲は森林が点在し、なだらかとは言え起伏が連なっている。
 遠く、近く、はっきりしない音源はしかし、センサーの表示によると確実に接近中だ。
 砲塔を指向する。正確に敵を捉えることは出来ないかも知れないが方角は五分通り合っている筈。
 内燃機関は無理が効く、エンジンにはまだ火を入れない。
 通信機も前進を指示しない。
 随分と時間が経った様な気がする。
 しかし戦闘時計は最初の兆候を拾ってからまだ1分も経っていないと告げていた。
 ふと見ると、少年の表情が強張っている。
 自らの直面した恐怖に耐えているのか?それともつい先日までの同僚達が先行して生身で敵にあたる可能性に気がついて気になっているのか?
 前方で重く沈んだ機関砲の連射音が聞こえた。
 それに続く爆砕音、歩兵戦闘車が喰われたのだろうか?
 更に丘陵の向こうが明るくなる。
 火炎放射器だ、火災が発生したのだろう。車輌の炎上とは異なる光源が広がって行く。
 カモフラージュが完璧である事を期待して猶も息を潜める。
 必ずここを通過する筈だ。
 いや
 事実は異なる、可能性が高いだけだ。
 だが目的が消耗の有無に関わらず敵の殲滅にあると言うなら兎も角、現状で敵に姿を進んで晒す事に意味は無い。
 稜線を越えてこちらに駆け下りてくる人影が続く、車輌は姿を見せない。
 まさか全て食われたのか?
 そんな筈は無いと判ってはいるものの・・・磁気センサーを入れる、もう近い。
 センサーはいきなり強烈な反応を示した。目の前だ。
 「下がれ、撃て、当てなくても良い!」
 操縦手のアガザ軍曹がエンジンが上げる抗議の悲鳴を無視して起動と同時にギアを全力後退にいれるとアクセルを一杯に踏み込む。
 鋭い加速がハーネスに身体を食い込ませる。
 だが、既に3号車の居た位置が明るく燃え上がっていた。
 早い
 カマリヤの射撃は正確に闇に浮き上がった巨人の機動をトレスしているが、だが直撃は無い。
 そこにいたのは、不釣り合いに巨大な頭部を持つ形式不明のメック
 最近俺達が「竜頭蛇尾」と呼んでいる奴だ。
 だが、俺には見覚えがあった、あいつだ。
 俺が頭を吹っ飛ばしたスティンガーの胴体と、その時カチューシャ(※1)の射撃で四散したフェニックスホークの頭部。
 そう言う事か
 歩兵と車輌部隊の損害が増えていると聞いた
 こいつがその元凶って訳か。
 なら引導を渡すのは俺の仕事だ。
 3号車だった篝火が爆散する、炸薬に火が回ったのだ、そのタイミングに合わせて車体を移動させ、同時に大隊本部と僚車を呼び出す。
 メック部隊が来るまで引き摺り回す
 生かして帰す訳には行かない。

 カペニテ近辺にて発生した戦闘は一方的な敗北だった。
 最大の原因は部隊の各個撃破であると思われる。
 最初に敵部隊を捕捉した第3機械化歩兵中隊は甚大な損害にも関わらず敵部隊を戦闘に引きずり込んだ。
 これは足止めを意図した戦闘行動であると考えられ、位置的に遊弋中の第16メック小隊と合流する事でその意図は成功すると判断したと思われる。
 しかし第16メック小隊は移動中に有力な敵メック部隊の奇襲を受け、2機の損害を出して後退した。
 結果として第3機械化歩兵中隊は単独で敵強行偵察小隊と戦闘を行う事になり、60%以上の損害を受けて潰走した。
 尚、正確な状況判断を怠ったメリンズ大尉は査問委員会に招集される予定であったが、後送中に死亡した為書類査定のみとする。

 整備小隊に所属する戦車回収車が発見したのは、回収不可能な迄に破壊された残骸の山と、執拗な迄に銃弾を撃ち込まれて親に見分けが付かないはおろか、人であったと判別するのも困難なまでに損傷した死体だった。
 特に車輌乗員は事実上全滅しており、唯一発見された生存者は戦車小隊小隊長車に配属されたばかりだった少年兵唯一名のみだった。
 しかし全身を覆う第三度火傷の為翌日死亡している。

付記
 整備第6小隊所属特殊回収車輌308号
 本次出動に措ける所見並びに戦果報告

 本日2115受命。
 同2121出動、2333に現地(カペニテ集落西盆地)到着。
 戦事報告リスト1及び未帰還機リストに基づき遺棄/閣座した機体を翌0105まで捜索続行。
 回収に値する機体が発見出来なかった為、生存者のみを回収し、同0415帰投。
 回収困難又は価値希薄と判断した物は別記リスト2の通り
 尚、敵の動向について以下所見を付記致します。

 所見
  ここ数次の戦闘に措ける敵の戦闘後処理は極めて異例であると判断いたします。
  破壊された(又は自力機動に支障を来たした)メックが持ち去られた後だと言う事は、我が方が敵の回収部隊に遅れをとったと言うに過ぎません。
  一方、在来型車輌を含めたすべての遺棄車輌・機体を回収するには大規模な回収部隊が必要であり、観測結果・時間からしてその様な部隊が敵に存在するとは考えられません。
  しかし、現に回収対象機材が皆無と言う事実が意味する所は、敵は撃墜した上で回収不可能な全ての機体を完全に破壊するべく活動していると言う事であります。
  これは由々しき事態であると判断致します。

(※1)45tクラスの装輪アウトリガー付きLRMキャリアー
    その独特の外観からWW2でソヴィエト連邦が運用した独立親衛砲撃隊の自走ロケット砲の一般名が冠されている。
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