テック・ストリート(「技術者街道」若しくは「技術者怪慟」)第一回
俺がハンガーに戻ると奴は不機嫌そうだった。
何故そんな事が判るかって?
その位判るもんさ、奴との付合いはこう見えても長いんだ…もう10年以上になるか?
コンビを組んでいるテックってぇのも珍しいもんだとは思うが、これが案外具合が良いんだ。
本当だぜ?
奴はどうしようも無い頓チキで、おまけに手のかかる厄介者だが、酒の好みが合う上に(幸い)女の好みも「違う」と来ている。
な?
相棒としちゃ上出来な方だと思わないか?
しかし、それとこれとは話が別だ。
俺の明晰なる頭脳が警告するには、不機嫌な時の奴には近づかない方が良いらしい。
不機嫌の原因が修理の方法論に関する厄介な内容に関わって居る時は「特に」だ。
当たり前かね?
何故そんな事が判るかって?
その位判るもんさ、奴との付合いはこう見えても長いんだ…もう10年以上になるか?
コンビを組んでいるテックってぇのも珍しいもんだとは思うが、これが案外具合が良いんだ。
本当だぜ?
奴はどうしようも無い頓チキで、おまけに手のかかる厄介者だが、酒の好みが合う上に(幸い)女の好みも「違う」と来ている。
な?
相棒としちゃ上出来な方だと思わないか?
しかし、それとこれとは話が別だ。
俺の明晰なる頭脳が警告するには、不機嫌な時の奴には近づかない方が良いらしい。
不機嫌の原因が修理の方法論に関する厄介な内容に関わって居る時は「特に」だ。
当たり前かね?
「つまり、部品が無いんだな?」
俺は直裁に言った。
「そんなストレートに言うものでは無いよ、我が心安き同胞よ」
不満らしい、頭(かぶり)を振りつつ奴は言葉を続ける
「咽のフィルターを掃除し賜えよ、もう少し言い様ってのがあるとは思わないかね?例えば『度重なる重責に耐えかねて集積されし者どもがハンガーストライキを敢行しつつある』とか」
「判り難いってばよ」
俺は無限の寛容さを示しつつ再びストレートに返し、更なる言葉遊びの奔流を塞き止める為、そこに予め回答内容を限定した質問を重ねる。
「で、あれだね?問題は。ゴロス中尉のアーチャー」
「ふむん、ま、其の通りだよ。君の明晰な頭脳の活動には敬意を表明する他は無いね」
不満そうではあるものの、奴は渋々と言った態度を意図的に大げさに表示する事でそれに代えるに留めると実務的な話に没頭する事に同意した。
「床に転がった損壊した手駆動装置の残骸とスレートに開いたエンプティマークだらけのストック表示画面を見ただけでその事実に思い至る事が適うとは、驚きを禁じ得ない。」
余計だよ
「で、『紛い物』も当てが無いのか?」
紛い物ってのは緊急代用品の事だ。言うまでも無い話だろうがね?
「ああ、その通り、それどころか前後2クラスの部品にも適当なものは見当たらない」
俺は耳を疑った。
何故って、そりゃそうだろう?
奴が言うには今現在のストックには60t〜80tまでの手駆動装置がただの一つも残っていないってえ話だ。
慌てて、しかし然も(さも)当然と言った風を装いつつスレートを覗き込む。
いや、まあ、疑ってかかっている訳では無いし、その行為が現状を好転させる訳でも無いんだが…
落ち付くためには代償行動ってぇのが要るんだよ!
______________________________________
それから俺達は2時間を費やした。
あれから1時間たっぷりを部品リストを眺める作業に割いた。
残り1時間は悪夢の様なアーチャーの扱いにくさと、それを格闘に用いる『豪胆無比なる』ゴロス中尉の人間的再評価に費やした。
これは当然の権利であり、かつ有効な解決手段だぜ?
例えそれが『聞くに耐えない罵詈雑言』と『シニカルかつ婉曲難解なジョーク』の遣り取りだとしても・・・だ。
結論から言おう。
代替部品の当てはついた。
俺達は肩を並べて「闇鍋」部屋(鹵獲メックのジャンクパーツ置き場)へと歩いて行った。
修理が終わったときの中尉の顔を想像しながらだ。
こう言った仕事は大歓迎だ。
仕事は楽しくやらなくっちゃあな?
______________________________________
普段はセンサーの邪魔になると言う表向きの理由に拠って光源を全て遮断していた「闇鍋」に光が満ちた。
工業用作業外骨格は好きじゃ無いんだが、この「将棋崩し」みたいな「山」を分断するのは、ガントリークレーンだけじゃぁ危なっかしくていけない。
何かが粉砕される音が聞こえた様な気がしたが、どうせ貴重な物資と言われているメック部品にも関わらずこの部屋送りになった様な代物ばかりだ。
そこにお目当ての品があるってぇのも困った話だが、使っていない機体の半端部品じゃ当座置き場が無いんだ。
文句はテックの人頭を充分手配出来ないお上に言ってくれ。首、回んないんだぜ?
苦闘数分そこにそいつはあった。
言っておくが俺達を嘗めちゃいけない、腐っても上級テック。
一見乱雑な様でもどこに何を置いたかくらい解っている。
威張っても駄目だがな。
さて、何が代用部品として燦然と浮上したのか?
それはアーチャーの手として機能し、かつ過酷な格闘行動に耐え、かつ近似の重量の機体の部品では無い何か だ。
解るかい?
そこにあったのは
ローカストの脚だ。
笑うなよ。これが又驚くほど「近い」んだ。
特に時速160kmで疾る20tの機体を支える足は、脚先端にある事もあって、強度的には充分だ。
元々こいつが他のメックを蹴り上げているってぇ事実を思えば懸念にもならんがね。
形状もこれが良い。
しかもサイズがほぼ同じなのだ。
全く別のメーカーの部品ではあるが、こう言った流用をやって退ける事こそテックの腕の魅せどころって訳だ。
俺達はローカストの脚を分解し始めた。
______________________________________
あー
俺は今くさってるぜ
何故かって?
結論から言おう。
中尉のアーチャーは直った。
それもこれ以上無いくらい「完璧」にだ。
中尉が感激のあまり俺達に酒を奢った位だ。(あの渋ちんがだ!!!)
つまらん話だが
いや、つまりだな
俺達がバラしたローカストの脚。
そこで俺達が見た物は。
ローカストの下腿駆動装置に接続された『アーチャーの手駆動装置』だった。
つまりはそう言う事。
battletech | - | -